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【降っても晴れても すきっぷびより】<125>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑰最終回
2024年06月24日
2012年5月29日。生まれてから、約1年4カ月。
582グラムで生まれた息子がついに、退院することになりました。
待ちに待った瞬間…のはずが、その数日前からわたしが高熱を出して寝込んでしまい、まだ本調子ではなかったからか、ボンヤリした記憶しかなく…。
心に残っているのは、家に帰るなり、念願の「添い寝」をしてみたこと。
リビングの座布団に寝かせた息子の横に、コロンと寝転がって、目線を合わせてみました。
すると、息子はなぜか大泣き。
「あぁ、この子は、ちょっとしたこともすべてが初めてなのだなぁ」と実感するのでした。
わが子が、ひとつ屋根の下にいる。
洗い物をしながらふとリビングを見ては、「そうか、ここにいるんだ」と気づき、部屋中がキラキラと輝いて見えたものです。
何をするにも医師や看護師の許可がいり、病院のルールが前提だった生活から一転、本人の様子を見ながらミルクの時間や量を調整したり、沐浴の回数を増やしたり。夜は真っ暗で静かな部屋で、並んで眠ることができる。
当たり前に思えることが幸せなんだと、一つひとつ噛みしめる毎日でした。
思いがけない早産と、長く苦しい入院生活。息子は中学生になりましたが、これまで書くことも、話すこともほぼありませんでした。
ひとつは、わたし自身がまだ直視できないほど、つらい記憶だったから。
そしてもうひとつは、早産児のママ、パパたちが不安になってしまうのでは…と、心配だったから。
このブログでもたびたび触れている通り、息子には今、知的障害と肢体不自由、自閉症スペクトラムがあります。小さく生まれても障害が残らない子が多い中、彼はNICUでの治療がなかなかうまく行かず、励ますどころか不安にさせるのでは…と、ためらっていたのです。
ただ、実際の「障害のある子」との生活は、思っていたものとまったく違いました。
彼の子育てで壁にぶつかることも多々あったものの、息子に障害があるから…というより、社会のしくみや、制度や、まわりの人の固定観念の問題。自分自身の生きづらさともつながっていることに気づいたのです。
子どものころは「万年学級委員」の、いわゆる優等生。「できない」と「助けて」が言えず、努力と我慢が当たり前。
なぜ、「必死で頑張ること」「人から評価されること」があんなに大事だと思い込んでいたのだろう。どんな子も、おとなも、その人のままで生きられるように。息子のおかげで大事なことに気づかされ、世界が色濃く見えるようになりました。
出産から5か月後の2011年7月、先輩記者と会って話す機会がありました。1100グラムで生まれ脳性まひのある高校3年(当時)の娘さんがいる、「低体重児の母」としても尊敬する先輩が、こんな話をしてくれました。
「子どもの人生で起きたことはすべて、子どもが自分で引き受けるもの。母のせいじゃない。
子どもは乗りもの。いろんなところに連れて行って、いろんな人に出会わせてくれた。あの子がいなかったら、わたし、最低の人間やったと思う。
彼(息子)はもう、わたしを含めて、いろんな人の人生を動かしているよ。大丈夫、3年後は笑って振り返れるから」
まだ混乱と悲しみでいっぱいで、ただただ、涙を流して聞いていたあの日。
日記には、こう書いてありました。
「今はやはり、共感できない部分もある。でも、3年後、5年後、わたしも強く明るい母になっていたい。優しい子に育った〇〇(息子)を見ながら、この日々を懐かしく振り返りたい。」
あれから13年。
息子は「中学、めっちゃ楽しい!」と青春を謳歌し、「強く明るい母」になれているかは分からないけれど、「無理して強く、明るくならなくていいんだ」と、思えるようになりました。先輩の言う通り、息子がわたしをいろんなところに連れて行ってくれた。とっても素敵な人たちと出会い、新しい世界をたくさん見せてもらい、「あぁ、以前のわたしのままで、人生終わらなくてよかった!」と、心から感謝しています。
そんなことが少しでも伝われば、家族支援や入院環境の充実に少しでも役に立てればと、「『手のひらサイズ』で生まれたきみと」を連載してきました。
次回からは、相変わらず暴れん坊街道まっしぐら、年長児となった次男(5)との冷や汗かきまくりの日々を、またレポートします…!
※写真は退院から8カ月後、家族で迎えられた2歳の誕生日。
過去のブログについては、下記をご参照ください。
<124>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑯
<123>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑮
<122>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑭
<120>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑬
<119>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑫
<118>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑪
<117>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑩
<116>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑨
<115>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑧
<114>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑦
<113>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑥
<112>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑤
<111>「手のひらサイズ」で生まれたきみと④
<110>「手のひらサイズ」で生まれたきみと③
<108>「手のひらサイズ」で生まれたきみと②
<107>「手のひらサイズ」で生まれたきみと①
▽萩原 真(はぎわら まこと)
【降っても晴れても すきっぷびより】は、すきっぷスタッフで元記者の萩原が、3人育児のドタバタや障害のある息子との生活で感じたこと、うれしいことから尽きない悩みまで本音満載でお届けします。
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