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【降っても晴れても すきっぷびより】<124>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑯
2024年05月30日
13年前、予定日より3カ月早く、582グラムで生まれた息子。
NICUでの治療は難航し、1年2カ月たってようやく移れた小児病棟は、付き添う親には超過酷な環境。それでも、ようやく自由を手に入れ、息子が人間らしく、ひとりの子どもとして生きられる環境は、大きな喜びでした。
面会や抱っこの時間も制限され、おもちゃや絵本の持ち込みも禁じられたNICU。
同じ時期、同じぐらいの体重で生まれた子がどんどん退院していくなか、真っ白な壁に囲まれた、窓も開かない小さな部屋で、この子は太陽の光も、風も浴びることなく、夏の暑さも冬の寒さも知らずに人生を終えてしまうのか…
たくさんの点滴につながれた息子を抱っこしながら、何度そうして、涙を流したか分かりません。
NICUの子は、そのままおうちに帰るのが通常、でしたが、予定外に入院が長引いた息子が小児病棟に移るのは、「本人の成長・発達のため」とのこと。
医療処置があり、まだ退院はできないけれど、夜も明かりがついたままスタッフがバタバタ走り回るNICUと違い、しっかり消灯し、カーテンでプライベートな空間も保てる。同じぐらいの年の子がいて、プレイルームもある。今後、肺炎などでたびたび入院することも考えられ、病棟に慣れる意味もある、と。
小児病棟に移る直前、点滴がすべて外され、瞬く間に薬が減り、ミルクは増量。
NICUでは半径40センチ以内しか移動できなかった息子が、小児病棟内であれば、自由に動き回れる。うれしくて、うれしくて。わたしも、夫も、暇さえあれば抱っこして病棟を歩き回りました。いろんな人を見せ、少し窓を開けて風と太陽の光を浴び、車の音を聞かせて…
「これが外の世界だよ」と、1年2カ月分の自由と経験を取り戻すために。
病棟は「きょうだい児禁止」でしたが、移って1カ月後にはデイルームでの面会がOKに。娘(5)が初めて弟を抱っこできる日が来ました。朝から、「は~、抱っこするのが楽しみすぎて眠れなかった~!」と言っていた娘。満面の笑みで抱っこしたあとは、「ずっとやってみたかった!」と、ベビーカーを押してグルグル回り、ようやくきょうだいが触れ合えた瞬間に、感無量でした。
ある日のこと。息子の世話を夫と交替し、珍しくデイルームでゆっくりコンビニ弁当を食べていると、ふたりのママたちの会話が聞こえました。
「なぁなぁ、いつもパパが抱っこして歩き回ってる赤ちゃん、見た?すっごいガリガリの!」
「すごいよなぁ、あのほっそい脚!びっくりしたわ~。やっぱり大学病院っていろんな子がおるな~」
「いつもパパが抱っこして歩いているガリガリの赤ちゃん」は、どう考えてもうちの息子。
夫が抱っこしているのは「いつも」ではなく、9割方わたしが付き添っているんですよ…!などと心の中でツッコみつつ、ここでモソモソと弁当をかきこんでいるのがママだとは、気づかれていないのだなぁ、と。
「超低出生体重児」の親歴も1年を超え、もっとガリガリな時期もあったので、むしろ「肉、増えたなぁ」と喜んでいましたが、世間の“普通”から見ると異様なのだと実感しました。
また、違う日。主治医から突然、こんな説明がありました。
「2歳までの栄養状態で、その後の中枢神経の発達が決まる。NICUで極端に栄養を制限されたので、今後どんなに頑張っても、同年齢の子ほどは発達しない。大人になっても、追い付くことはない」
その夜だけ、息子を抱っこして夜空を見上げながら、ボロボロ涙を流しました。
ごめんね、小さく生んでしまって。入院生活でも守ってやれなくて…
それでも、目の前のわが子は日々めざましい成長を見せている。予想はあくまで、これまでの人の統計であって、同じ細胞、同じ遺伝子の人などひとりもいない。この子がどんな風に成長し、どんな人生を送るかは、だれにも分からない。
退院したらきっと、いろんな視線にさらされたり、人との「違い」に傷ついたりすることもあるだろう。そんなこんなも、「外の世界」に出られたおかげ。
傷つくことを恐れて、この子の世界をわたしが狭めてしまわず、堂々と、広い世界をいっしょに見に行こう。いろんなものを見て、聞いて、出会って、この子の人生が豊かなものになるように。
真夜中のエレベーターホールで心に決めたことを、今も覚えています。
1年4カ月もの長い長い入院生活が、ようやく終わりを告げようとしていました。
※写真①は生まれて2週間後、写真②は小児病棟に移る直前。
NICU入院中、非常にしんどい時期もあったので、「元気になったなぁ~!」と思っていました。
(⑰(最終回)につづく)
過去のブログについては、下記をご参照ください。
<123>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑮
<122>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑭
<120>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑬
<119>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑫
<118>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑪
<117>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑩
<116>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑨
<115>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑧
<114>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑦
<113>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑥
<112>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑤
<111>「手のひらサイズ」で生まれたきみと④
<110>「手のひらサイズ」で生まれたきみと③
<108>「手のひらサイズ」で生まれたきみと②
<107>「手のひらサイズ」で生まれたきみと①
▽萩原 真(はぎわら まこと)
【降っても晴れても すきっぷびより】は、すきっぷスタッフで元記者の萩原が、3人育児のドタバタや障害のある息子との生活で感じたこと、うれしいことから尽きない悩みまで本音満載でお届けします。
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