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【降っても晴れても すきっぷびより】<122>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑭
2024年03月26日
「長くて半年」と言われたけれど、家に帰れるきざしは、まったく見えませんでした。
13年前、582グラムで生まれた息子。退院できると思っていた「産まれて、半年」ごろから、容態は逆に悪くなるばかりだったのです。
不整脈がひどくなり、「ミルクをうまく消化できず、腸が張っている」「肝機能の値が悪い」などと、たびたびミルクがストップ。長いときは約2週間絶食して、点滴のみで過ごし、まさに「骨と皮だけ」に。ほとんど笑わなくなり、胃からは出血、円形脱毛症まで発症。NICUに回ってくる理学療法士の先生に、「毎日足の体操をするように」と言われていたものの、少し触っただけで折れそうな脚を見ては、胸が張り裂けそうになるのでした。
「ヒルシュスプルング病」「新生児肝炎」などの病気が疑われ、肝臓の組織をとる検査や、腸の一部を切る手術の可能性まで浮上。
赤ちゃんなのに頬がこけ、夜間の薄暗いNICUで見ると、顔に影がくっきり。この子の命の火は、明日もともっているだろうか…。毎晩、祈りながらその場を離れました。
しょっちゅう採血をして、数値に目をこらし、泣く気力もなくなるほどミルクを止めて薬と検査と処置を増やすのが、人の健康に本当にいいことなのか…?
素人が勝手なことは言えないと分かりつつ、日に日に元気がなくなる息子をそばで見ながら、そんな思いがふくらみます。
おっぱいやミルクをたっぷり飲み、痛い検査や機械音で頻繁に起こされず、静かに眠れる家庭的な環境と、泣いたら抱っこしてもらえる温かい関わり。人間が健康に育つのに必要なものは、もっとシンプルなのではないか―
医学の知識がないのが悔しくて、水のなかでもがくように、心臓病や心電図の本を買い込み必死で勉強しました。(2枚目の写真は、そのときのノートです)
薬が増えればかならず、その目的や副作用を納得がいくまで聞き、看護師さんやお医者さんには疎まれているだろうな…とは思いつつ、
「わたしは、NICUに友だちをつくりに行っているのではない」と自分を奮い立たせ、戦場に赴くような気持ちで面会に向かうのでした。
とは言え、張りつめた心は常に折れる寸前で、
息子を守れるのは自分だけ、娘のためにも生きなければ…
そう思いながら
「今日こそ、息子からすべての点滴の針を抜いて、ふたりでNICUを逃げ出そう。病院の屋上から飛び降りて、痛みも苦しみもない世界に行こう」
病院に向かう車中、心に決める日もありました。
(物騒な話ですみません…当時は本当に思いつめていました)
そんな日に限って、息子をわが子のようにかわいがってくれる、心から信頼できる看護師さんが担当。優しい笑顔と頼もしさに「もう少し頑張ってみよう」と思い直し、命の恩人だと今も感謝しています。
NICUでは「前代未聞」と言われた、他院でのセカンドオピニオンまで取りに行き、そのおかげか、数値が改善したからか、手術は免れたものの、
「生きる」って、なんだろう。
人が人として生きるのに、大切なことってなんだろう。
極限の生活で、何度も、何度も考えました。
現在、障害のある子のママ仲間らと小さなグループをつくり活動していますが、
「学歴やテストの点や人からの評価なんて、ちっぽけなもの」「いろんな人と関わりながら、喜びも悲しみも思いきり感じてこそ人生」という信念は、小さな命の前で苦しみぬいたこの入院生活が土台になっていると感じます。
2012年2月、1歳の誕生日は、NICUに隣接する「GCU(回復治療室)」で迎えました。日付が替わった瞬間、サプライズでバースデーソングが流れ、スタッフのみなさんからのメッセージ入りメダルや、手形足形のカードのプレゼント。
3月下旬には5カ月ぶりに母乳を再開。「搾乳をやめずに頑張ったかいがあった…!」と喜んだのもつかの間、嫌がってまったくくわえてくれず、看護師さんたちがあの手この手で授乳を応援してくれたことが、日記に残っています。
あのころのわたしは余裕がなさすぎて、受け取れていなかった優しさもたくさんあったのだと、今になって思います。
4月4日。約1年2カ月を過ごしたNICUとGCUから、ようやく卒業です。お腹のガス抜きなど、退院後も家庭でしなければならない処置がいくつかあったため、「おうちでの生活にスムーズに移行できるように」と、小児病棟に移動。そこでの約2カ月の生活もまた、驚くほど厳しいものだったのです。
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過去のブログについては、下記をご参照ください。
<107>「手のひらサイズ」で生まれたきみと①
<108>「手のひらサイズ」で生まれたきみと②
<110>「手のひらサイズ」で生まれたきみと③
<111>「手のひらサイズ」で生まれたきみと④
<112>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑤
<113>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑥
<114>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑦
<115>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑧
<116>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑨
<117>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑩
<118>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑪
<119>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑫
<120>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑬
▽萩原 真(はぎわら まこと)
【降っても晴れても すきっぷびより】は、すきっぷスタッフで元記者の萩原が、3人育児のドタバタや障害のある息子との生活で感じたこと、うれしいことから尽きない悩みまで本音満載でお届けします。
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