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【降っても晴れても すきっぷびより】<120>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑬
2024年01月19日
世界でたったひとりのきょうだい。
なのに、この子たちが一度も会えないなんて。
2011年2月、予定日より3カ月早く、582グラムで生まれた息子。約1年半に渡るNICUと小児病棟での生活は、「きょうだい」にとっても過酷な時間でした。
息子が入院していたNICUでは、両親は午前中や教授回診中などをのぞき、いつでも面会可能。祖父母は入院期間に1回のみ。きょうだいは、全面不可。
知らない子のおじいちゃんでも、息子の保育器をのぞきこんで「うわぁ」と声をあげて“対面”しているのに、姉である娘は、それすら許されないのでした。
保育所のお友だちに妹、弟が生まれるようになり、「あおいちゃん(娘)も赤ちゃん(弟妹のこと)がほしい!」と言い続けていた、当時4歳の娘。妊娠が分かったときは一緒に喜んで、お腹にもよく話しかけてくれました。
ある日突然、超低出生体重児での早産は、娘には理解が難しく、「みんなの赤ちゃんは保育所に一緒にお迎えに来るのに、あおいちゃんの赤ちゃんは、なんでおうちに帰ってこないの?」と、よく聞かれたものです。
一般的に、病院側がきょうだいの面会を制限する根拠のひとつとして、「ショックや不安を感じるのでは」という心配もあるそうですが、産後すぐ、「赤ちゃんだよ」と写真を見せたときの娘の第一声は、「うわぁ、かわいい!」。「新生児って、普通は〇〇」などという先入観のない子どもにとっては、ようやく生まれてくれた自分の弟でしかないのです。
誕生して1カ月ほどは特に、明日をも知れぬ命で、夫と2人で息子に付き添う日々。娘にすれば、夜もなかなか両親が帰ってこず、仙台から手伝いに来てくれていたわたしの母に「ママと父ちゃんがいい」と泣いていたと言います。
今も娘から当時のことを聞かされては、「まだ小さかったのに、たくさん我慢をさせてしまった」と、申し訳なさでいっぱいになります。
NICUに入れないきょうだいたちは、「前室」と呼ばれる廊下で、本を読んだりDVDを見たりして過ごしていました。休日は特に、お母さんやお父さんの面会が終わるのを待つ子どもたちがずらり。夫が週末出勤の際は娘をひとりで待たせることもあり、面会中に息子の容態が悪くなるとなかなか離れられず、そこでも寂しい思いをさせてしまいました。
息子のところにいると、娘のことが気になる。娘と一緒にいると、息子のことが心配になる。
世界一大事なふたりを、いっぺんに抱きしめられたらいいのに…
心と体が引き裂かれるような毎日でした。
生まれて3カ月半がたった5月21日、主治医の許可を得て、NICUと前室を隔てるドアの前まで、息子を連れて行くことができました。ドア越しに初めて対面した2人。姉を見て、にっこり笑う息子。4人で初めての家族写真も撮りました。
1年2カ月過ごしたNICUと比べ、その後移った小児病棟は面会のルールが少しゆるやかとは言え、子どもは病棟内への立ち入りが禁止。会うのはデイルームやエレベーターホールのみ。「おとな」であれば、その子のおじ、おば、遠い親族でも深夜までベッドサイドで一緒に過ごせる一方、子どもは「感染源だから」と、一律にシャットアウトされてしまう。もどかしさを感じました。
そんなときによく思い出したのは、息子の出産前に取材した「こどもホスピス」。「穏やかに死を待つ場所」ではなく、その子がその子らしく、家族や友人と、家庭的な環境で過ごせる施設です。その設立を強く訴えていたかたたちの気持ちが、より強く、胸に迫るのでした。
海外ではきょうだいの面会を許可しているNICUや病棟のほうが多数、だと言い、日本でも少しずつ緩和されてきたそう。きょうだいが安心して思いを語ったり仲間とつながったりする場も、でき始めていると聞きます。
入院生活も1年3カ月を過ぎたころ、1泊2日で自宅への「外泊」許可が出ました。娘は「お風呂に入れてあげたい!」「お散歩でベビーカー押したい!」と、大張り切り。2日目の朝に息子が発熱してしまい、予定を切り上げて病院に戻らねばいけなくなると、わんわん大声で泣き出した娘。そうだよね、つらいよね…と、一緒に涙がこぼれました。
退院の日。NICUの前室にと、絵本とDVDをたくさん寄贈しました。
きょうだいたちの寂しさが、少しでもまぎれますように。
きょうだいのことも大事に思うママとパパの悲しみが、少しでもやわらぎますように。
毎日騒がしく、取っ組み合いのケンカもする、わが家の3きょうだい。これを書きながら、ケンカできる幸せを、あらためて噛みしめています。
※写真①は、娘と息子がドア越しに初対面したとき、②は息子が退院して間もなく、ようやく一緒に暮らせるようになったころのものです。
過去のブログについては、下記をご参照ください。
<107>「手のひらサイズ」で生まれたきみと①
<108>「手のひらサイズ」で生まれたきみと②
<110>「手のひらサイズ」で生まれたきみと③
<111>「手のひらサイズ」で生まれたきみと④
<112>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑤
<113>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑥
<114>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑦
<115>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑧
<116>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑨
<117>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑩
<118>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑪
<119>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑫
▽萩原 真(はぎわら まこと)
【降っても晴れても すきっぷびより】は、すきっぷスタッフで元記者の萩原が、3人育児のドタバタや障害のある息子との生活で感じたこと、うれしいことから尽きない悩みまで本音満載でお届けします。
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