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【降っても晴れても すきっぷびより】<119>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑫
2023年12月18日
12年前、582グラムで生まれた息子。面会のためNICUで毎日長時間過ごしていると、いろんなことが見えてきます。
前回そう書いたように、入院期間が延びるごとに、安心するより、不安の種が増えていきました。
10年以上前のことで、ややあやふやですが、NICUは確か、定員が12人ほど。看護師さん1人につき、3人の赤ちゃんを担当。重い病気や命の危険のある赤ちゃんばかりで、「1人が3人」でも多いなぁと感じたものの、NICUの隣にあって、回復期の赤ちゃんが過ごす「GCU」はさらに多い。(調べてみると、GCUの基本的な配置基準は1人につき赤ちゃん6人、だとか)
息子の病院では夜間、GCU全体で看護師さんが2人だけ。
時に、「この人数を2人でって、絶対無理では…」というぐらい赤ちゃんが増えることもあり、夜、面会に行くと、ずらりと並んだ子が一斉にギャンギャン泣いていてびっくり…ということがたびたびありました。
大きな声で泣けるのは元気な証拠でもあり、「田んぼから聞こえるカエルの合唱みたいだねぇ」と、看護師さんと苦笑しあったものの、内心、ちょっとフクザツでした。「しんちゃん(息子)、大泣きしてたけどほかの子の処置で行けなくて。しばらくしたら、泣き疲れて寝ていました!」と笑顔で報告されると、親としては切なくなったものです。
泣き声は、赤ちゃんの言葉。お腹が空いた、眠い、おむつが気持ち悪い、要求を伝え、だれかに応えてもらうことで、周囲への信頼と安心をはぐくむと言われます。泣いても、泣いても、だれにも応答してもらえない。そんなことが数週間も数カ月も続いたら、この子たちの心はどうなってしまうのだろう…。
生理的な欲求だけでなく、甘えたくて抱っこしてほしいときもあるはず。ですが、常に戦場のようなNICU・GCUの看護師さんたちにそんな余裕はありません。
以前読んだ本によると、欧米のNICUは看護師1人が赤ちゃん1~2人を担当。日本は3人か、それ以上。日本の医療現場は圧倒的に人手不足で、家族が過ごしやすい環境にして、「治療」以外の「育児」を家族に担ってもらおう、という案もあるそうです。
確かにNICUは、面会に行っても、ひしめき合う保育器の間に丸椅子が出されるだけで、家族がリラックスして長時間いられる場所ではありませんでした。(それでも毎日数時間居座っていたのは、わたしぐらい…) オムツ替えも抱き上げるのも看護師さんのみ、もしくは許可が出たときだけで、「育児」の場とは言いがたい。
祖父母の面会はこの病院の場合、どれだけ入院が長期に及んでも、入院中一度だけでした。
毎日入り浸っていると、家族がほぼ面会に来ない赤ちゃんがいることもよく分かり(もちろん、それぞれの家庭の事情があると拝察します)、「家族ができることを増やす」大切さと、家族任せでは解決しない問題を感じました。息子がぐっすり眠っているときは、「わたしでよかったらいくらでも抱っこするのに…!」と、もどかしい思いで、周りの赤ちゃんたちの泣き声を聞いていたものです。
ただでさえ人がいないNICUで、赤ちゃんのそばを離れられないからか、「リーダー」と呼ばれる看護師さんのデスクはベッドのすぐそばに。夜中もライトがつき、耳をつんざく音のシュレッダーも昼夜問わず稼働。ふたがバコン!と閉まる分別用のゴミ箱、深夜でも容赦なく鳴り続ける医療機器のアラーム…。
感染を防ぐため、おもちゃやぬいぐるみ、絵本などは持ち込み禁止(入院が長期になり、途中から1冊だけ許してもらいました)。
人生の基盤を築くような大事なスタート期に、「コット」と呼ばれる小さな箱の中で一日中、真っ白な天井と壁を見つめる赤ちゃんたち。この子たちは「患者」なのか、「何もわからない赤ん坊」なのか、「ひとりの人間」なのか…。
5カ月と言われていた入院期間を過ぎても、家に帰れるめどがまったくつかず、そんな思いが日に日に高まっていったのでした。
もちろん、この病院が何かを怠っていたわけではなく、診療報酬など根本的な欠陥があると思われます。
12年たった今、病院をより「生活の場」に近づけようと、さまざまな工夫もなされているはず(コロナ禍をへて、付き添いの家族の環境はますます厳しいとも聞きますが…)。
当時、驚いたことがもうひとつ。親と同じぐらい近い関係であるはずの「きょうだい」は、NICUやGCU、小児病棟の部屋への立ち入りが、一度も許されなかったのです。当時4歳だった娘は、弟に会うまでに1年以上かかりました。
次回はそんな、きょうだいたちの話を。
過去のブログについては、下記をご参照ください。
<107>「手のひらサイズ」で生まれたきみと①
<108>「手のひらサイズ」で生まれたきみと②
<110>「手のひらサイズ」で生まれたきみと③
<111>「手のひらサイズ」で生まれたきみと④
<112>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑤
<113>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑥
<114>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑦
<115>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑧
<116>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑨
<117>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑩
<118>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑪
▽萩原 真(はぎわら まこと)
【降っても晴れても すきっぷびより】は、すきっぷスタッフで元記者の萩原が、3人育児のドタバタや障害のある息子との生活で感じたこと、うれしいことから尽きない悩みまで本音満載でお届けします。
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