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【降っても晴れても すきっぷびより】<118>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑪
2023年11月22日
今から12年前の2月。
予定日より3カ月早く生まれた息子は、小さな体で闘って、闘って、めざましい変化を見せていました。
生後1カ月と13日。呼吸器が完全に外れ、その翌日には看護師さんがお風呂に入れてくれました。
初めての沐浴。見ることすらかなわず残念でしたが、とても気持ちよさそうにしていたそう。頭にベッタリ張り付いていた髪の毛は、フワフワに。毎日痛いことだらけで、1カ月以上お風呂にも入れずかわいそうでならなかったので、本当にうれしい進歩でした。
582グラムだった体重は700グラム台に乗り、おむつのサイズもアップ。抱っこも日常的にさせてもらえるようになり、ようやくトンネルを抜けたような、すべてがいい方向に向かいはじめたような…
そう思ったのもつかの間、心配していた「未熟児網膜症」が進行し、3月末に目のレーザー手術を受けることが決まったのです。
手術当日、面会に行くと輸血をされていました。貧血が悪化しており輸血の必要があったけれど、目には良くないため見送っていた、とのこと。
それならわたしの血を使ってくれたら…と思ったものの、輸血用の血液はさまざまな処理が必要なうえ、近しい親族間の血は避けたほうがよいそう。
輸血にはリスクもあり、ショックだった一方、
「献血をしてくれるぐらいだから、きっと心優しい人の血だ、よかったね、うれしいね…」
だれかの血がどんどん注ぎ込まれるわが子を見ながら、そう話しかけました。
貧血は放置すれば心不全や呼吸困難につながると言い、その後もたびたび輸血をすることに。大事な血液を分けてくれたどなたかには、今も感謝しています。
手術は約5時間。息子がNICUに戻ってきたころには、すっかり夜になっていました。
開眼器でずっと目を開けさせられていたせいか、全身麻酔で眠っているはずが左目だけ開いたまま。1カ月半ぶりの気管挿管は、生まれたときより痛々しく見えました。
翌日には両目が腫れあがり、1回20㏄まで増えていたミルクは5㏄に。
NICUで毎日、長時間過ごしていると、「サチュレーション」と呼ばれる酸素飽和度や心拍などの数値、看護師さんの処置の手順、お医者さんが何を見ているか、いろんなことがよく分かってきます。日がたつにつれ安心するどころか、何もかもが気になり、不安は増すばかり。
術後から明らかに、急激に心拍数が下がる「徐脈」という状態が増え、心拍が落ちているからと口の管もなかなか抜けず…。
手術から2日後、精神科で以前もらった作用の強い抗不安薬を、初めて服用しました。いつ母乳が再開してもいいようにと、避け続けてきた薬。とにかく眠れず、不安に押しつぶされそうで、わらにもすがる思いでした。生まれたときの状態に戻ったような苦しみに、「この気持ちは生きている限り続くのだろうか」と、絶望感に襲われました。
息子の容体は良くならず、その10日後にはさらに作用の強い薬をスタート。カウンセリングも受け続けたものの、心が軽くなるような感じはしません。
息子が元気ならわたしも幸せ、元気がなければ不幸せ。そんなグラグラの心を支えてくれるのも、余計落ち込ませるのも、薬でもカウンセリングでもなく、看護師や医師、夫や友人、親族の、何気ない言葉。わたしと息子の周りにいる人たちだったのです。
まちに春が来て、もともとの予定日である5月10日が近づくにつれ、ふさぎ込むようになりました。「大きくなった」とは言え、36週でまだ800グラム。お腹で育てられる“普通のお母さん”との違いを、痛感していきました。
小さな赤ちゃんもすっかり見慣れていましたが、ほかの子のおじいちゃんに保育器をのぞきこまれ、「うわっ!」と声をあげられると、現実に引き戻されました。
NICUの待合室で一緒になった、出産したばかりのお母さん。わたしと同じ時期、同様に帝王切開を勧められたけれど、「学年が上がってしまう」「1000グラム未満でなんか産みたくない」と拒否し、4月までもたせて1200グラムで出産した、とのこと。
「うちの子でさえ、おサルのおもちゃにしか見えなかったけど、500グラムってペットボトル1本分や~ん! 学年も上がったし、損したねー」
この子の命を救うには、お腹から出すしかないと思った。わたしは間違ったのだろうか。一生取り返しのつかないことをしてしまったのだろうか…
春の日差しも、その光の下を笑顔で行き交う人たちも、まぶしすぎて、苦しくて。
今でもツツジが満開になると、当時を思い出して、胸がぎゅっと締め付けられます。
過去のブログについては、下記をご参照ください。
<107>「手のひらサイズ」で生まれたきみと①
<108>「手のひらサイズ」で生まれたきみと②
<110>「手のひらサイズ」で生まれたきみと③
<111>「手のひらサイズ」で生まれたきみと④
<112>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑤
<113>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑥
<114>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑦
<115>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑧
<116>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑨
<117>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑩
▽萩原 真(はぎわら まこと)
【降っても晴れても すきっぷびより】は、すきっぷスタッフで元記者の萩原が、3人育児のドタバタや障害のある息子との生活で感じたこと、うれしいことから尽きない悩みまで本音満載でお届けします。
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