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【降っても晴れても すきっぷびより】<115>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑧

2023年08月21日

  • 繝輔ぉ繧、繧ケ繝悶ャ繧ッ

582グラムの息子とわたしの日々は、病院のチャイムとともに始まります。

12年前の2月、予定日より3カ月早く、緊急帝王切開で生まれた息子。当時入院していたNICUは正午から面会が可能で、毎日欠かさずその数分前には扉の前に到着し、“開店”を待ち構えていました。正午を知らせるチャイムが鳴るや否や、「ピンポ~ン」とインターホンを押し、名前を告げて入室。手洗いと消毒を2回すると、ようやく息子にたどり着けます。

本来なら妊娠7カ月、ほかの赤ちゃんはまだまだ、お母さんのお腹の中で24時間いっしょに過ごしている時期。家族と離れ、たくさんの医療機器をつながれている息子が不憫に思えて、1分でも1秒でも長く、そばにいたかったのです。

はじめの1カ月は、育児休業を取得した夫と一緒に面会へ。1人目出産後、「子育ては絶対にひとりではできない…!」と痛感し、「2人目のときは、必ず育休を」と、約束していました。こんな育休になるとは夢にも思いませんでしたが、心身ともに不安定な時期、夫がいてくれたのは本当に良かったと思います。

夫が職場復帰してからは、正午~18時前までわたしがNICUで過ごし、仕事帰りの夫と交替。保育所に娘を迎えに行き、ご飯を食べさせたころに、夫が帰宅。また入れ替わりでわたしが病院へ行き、23時過ぎまで息子と過ごす…という毎日。

「一日8時間も居座る」ようなお母さんはほかにおらず、「凄まじい執念」「どんだけおんねん」などと看護師さんに疎まれるかも…?と、ちょっと心配したものの、家にいても心配で、何も手につきません。「NICUに友だちをつくりに行っているのではない。自分が信じる道を進もう」と割り切って、結局、小児病棟に移るまでの1年2カ月、その生活を続けました。

そのぶん、4歳だった娘に寂しい思いをさせてしまったことには、今も胸が痛みます。

きょうだいであっても、子どもはNICUに一歩も入れません。夜、わたしと夫が面会に行っている間、宮城県仙台市の実家から手伝いに来てくれていた母に「ママと父ちゃんがいい」と泣いていたそう。「お姉ちゃん」とは言え、まだわずか4歳。家族の生活も、心も、バラバラになっていくのを感じました。

前回のブログに書いたように、退院後通っていた精神科で「産後うつ」と診断。搾乳をやめて薬を服用し、ゆっくり体を休ませるよう言われたものの、とにかく必死で走り続けることで、心をもたせていたのです。

息子は生まれて2週間後、口の管が抜け、鼻に着けるタイプの呼吸器に。2月末には目が開き、キョロキョロ動く黒目に感激しました。チューブで注入される母乳の量もちょっとずつ増え、3月初めには1回9ccに。
手足に刺さっていた点滴が外れたことにも喜びつつ、体重の増減や息子のちょっとした表情、モニターに常に表示される酸素濃度などの数値に一喜一憂し、行き帰りの車の中では、しょっちゅう泣いていました。

胎内の薄暗さを再現するため、早産児の保育器には日中、布がかぶせてあります。わたしの都合でむやみにこの布をめくってはならない…と、保育器の前にただ座り、布に描かれたヒヨコちゃん柄を見つめながら、自分の無力さを痛感するのでした。

「せめてもう少し、お腹の中にいさせたほうがよかったのでは…」
そんな後悔がたびたび頭をもたげ、思い切って主治医にぶつけてみると、
「とても勇気のいる決断だったと思うけど、よくあそこで帝王切開を選んでくれましたね。しんちゃん(息子)は、小ささもきっと克服してくれますよ」
そう返してくれました。

次から次とあふれてくる疑問や不安に丁寧に答えてもらいながら、医療者の言葉の力、存在の大きさを思い知りました。どんな薬やカウンセリングより、良くも悪くも、わたしたちを左右するのだと…。

帝王切開の傷の痛みも記憶にないほど、ギリギリの日々を気力だけで乗り切っていたあのころ。

追い打ちをかけるように、地元の仙台を未曽有の大地震が襲ったのです。

※過去のブログについては、下記をご参照ください。
<107>「手のひらサイズ」で生まれたきみと①
<108>「手のひらサイズ」で生まれたきみと②
<110>「手のひらサイズ」で生まれたきみと③
<111>「手のひらサイズ」で生まれたきみと④
<112>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑤
<113>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑥
<114>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑦

▽萩原 真(はぎわら まこと)
【降っても晴れても すきっぷびより】は、すきっぷスタッフで元記者の萩原が、3人育児のドタバタや障害のある息子との生活で感じたこと、うれしいことから尽きない悩みまで本音満載でお届けします。

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