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• 子育てブログ

あの日、いつものように妊婦健診に出かけて
お腹のなかにいたきみが、まさかそのまま、1年半も家に帰れなくなるなんて、
思いもしなかった。

2011年2月、緊急帝王切開で出産した息子は、わずか582グラムでした。

涙が枯れるほど泣き続け、夜もほとんど眠れないまま3日たったころ。
うまく呼吸ができなくなり、看護師さんに相談すると、睡眠薬を処方されました。
翌々日、病院の心理士さんが病室をたずねてきました。

子どものころから「完璧」をめざしてしまうこと、
妊娠中、「仕事も手を抜きたくない」と無理を重ね、切迫流産につながったのではないか、
体重管理も厳しくしすぎてしまい、お腹のなかの息子に栄養がいかなかったのでは、
わたしの弱さと見栄のせいで、息子がこんな目にあったのでは……

言葉にするのが怖かった思いを約1時間、一気に聞いてもらいました。

出産から8日後、退院の日。
気管挿管された息子はNICUに入院しており、一緒に帰るわけにはいきません。
一心同体だった赤ちゃんと急に離され、ひとり病院に置いて帰るのは、
体をバラバラにされるような思いでした。

約1週間ぶりの外の世界は、すべてが灰色に見えました。

食欲がわかない。「おっぱいを出すために…」と、無理に食べるけれど、味がしない。
以前は好きだったテレビ番組を見ても笑えない。楽しいことが何もない。
気力がわかず、深くて暗い、海の底に沈んだよう。

退院から数日後、入院中に話した心理士さんのカウンセリングを受け、そんな気持ちを明かすと、精神科の受診を勧められました。

医師から言われたのは、
「がまんせず、周りの人に気持ちを打ち明けること」
「今はとにかく、身体を休ませること」
どちらも、わたしが苦手とすることです。

退院後は毎日、時間の許す限りNICUに面会に行き、
昼夜問わずアラームをかけて、きっちり3時間おきに搾乳していました。

睡眠導入剤でもある抗不安薬を処方され、「夜間の搾乳はせず、ぐっすり眠るように」と言われたものの、わたしが母親としてできるのは、母乳を搾ってNICUに届けることだけ。
あと3カ月、お腹で育てるはずだった息子は保育器の中。触れることすらできないのです。

搾乳時間が空いたら母乳量が減ってしまうのではないか、
わが子が命の危機と戦っているときに、母親が「ぐっすり眠る」なんて…

「今頑張りすぎると、突然糸がプツッと切れて、赤ちゃんに会いに行けなくなったり、診察にも来られなくなったりするかもしれない」
医師からはそう警告されたものの、

今頑張らなくて、いつ頑張るの？
わたしが頑張らなくて、だれが頑張るの？

「頑張る」のをやめることなど、できませんでした。

夫との衝突も増え、同じ親でも「母親」と「父親」はまったく違うのだと、痛感することも。お互いに余裕をなくしていたと、今なら分かりますが、「産んだ人間」の苦しみは理解できるわけがない…と、諦めてしまったのです。

母子手帳についていたハガキ(出生連絡票)に、「先がまったく見えず不安」と記入し、助産師さんか保健師さんの訪問を希望したものの、連絡が来ることはありませんでした。

後日知ったことですが、病院から市に「超低出生体重児のため入院中」といった連絡が行っており、「訪問は赤ちゃんの退院後」と決まっている、とのこと。保健師さんからようやく電話があったのは1年半後、息子が退院したあとでした。

あのとき、助けてほしかった。
赤ちゃんがそばにいてもいなくても、
母親として一番助けてほしかったのは、出産直後の、あのときだったのです。

結局、処方された薬を飲むことも、夜の搾乳をやめることも、心身を休ませることもできず
やがて、「産後うつ」と診断されました。

※過去のブログについては、下記をご参照ください。
＜107＞「手のひらサイズ」で生まれたきみと①
＜108＞「手のひらサイズ」で生まれたきみと②
＜110＞「手のひらサイズ」で生まれたきみと③
＜111＞「手のひらサイズ」で生まれたきみと④
＜112＞「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑤
＜113＞「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑥


▽萩原　真（はぎわら　まこと）
【降っても晴れても すきっぷびより】は、すきっぷスタッフで元記者の萩原が、3人育児のドタバタや障害のある息子との生活で感じたこと、うれしいことから尽きない悩みまで本音満載でお届けします。