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【降っても晴れても すきっぷびより】<112>「手のひらサイズ」で生まれたきみと⑤
2023年05月26日
妊娠、出産は何が起きるかわからない。
それでも自分が、手のひらに乗るほどの赤ちゃんを産んでしまうなんて。
その日まで、夢にも思いませんでした。
緊急帝王切開で、予定日より3カ月早い27週2日、582グラムで生まれた息子。
12年前の、2月初旬のことでした。
深夜に出産し、一睡もできないまま朝を迎えました。
車いすに乗せられ、NICU(新生児集中治療室)へ。赤ちゃんは保育器の中で、両手足を開き、仰向けで寝かされていました。
気管挿管されているせいか、お腹はパンパン。
産毛の無いツルツルの肌は赤黒く、手足は折れそうな細さ。
どこに目があるかもはっきりわからず、気管チューブを固定するため、頬にはべったりとテープが貼られています。
小さな小さな手に、そっと触らせてもらいました。
近年、早産の赤ちゃんは「未熟児」とは言わず「低出生体重児」と呼ぶようになったそうですが、
「未熟」という言葉のほうがしっくり来るほど、「お腹のなかで形作られている途中に出されてしまった」のがよく分かる、痛々しい姿でした。この子はまだ、「赤ちゃん」ではなく「胎児」だ、と…。
出産直後はただ呆然としていたのが、少しずつ、何が起きたのか分かってきました。
あんな状態で産んでしまった。大変なことをしてしまった。
ショック、悲しみ、後悔、自分への怒り…。
のたうち回るほどの感情が、猛烈に押し寄せてきたのです。
わが子が、痛くて、つらくて、命の危険まであるのに、当のわたしには何もできない。
挿管されるのも、たくさん点滴をつながれるのも、3カ月早く生まれたのも、
全部全部、自分だったらいいのに。
ごめんね、ちゃんと産めなくてごめんね、あのとき、もっとこうしていれば、あのとき、あのとき…
27週なら通常、1000グラムほどはあるはずが、何らかの理由で栄養が行かず582グラムしかなかったと聞きました。へその緒が少しねじれていたのか、子宮の形のせいか、大きな異常はないので原因は分からない。そう言われても、自分のせいとしか思えません。お腹の中でもしんどい思いをさせていたなんて、どれだけ「最低な母親」なのか、と…。
昼も夜もなく一日中、喉が切れそうなほど泣き続けました。
泣き疲れて少しウトウトすると、夢の中ではまだ、「7カ月の妊婦さん」。グルグル…とお腹の下のほうが少し動いた気がして、「あぁ、今日も赤ちゃんは元気だ」と手をやると、そこにはもう、赤ちゃんはいません。
また現実が押し寄せてきて、布団の中で嗚咽するのでした。
病室の窓から、吹雪が見えました。
「こんなに雪が降っているのに、5月に生まれるはずだったわたしの赤ちゃんは、なぜもう、お腹にいないんだろう」
人間の身体って、こんなに涙を流しても枯れないんだ…と、ぼんやり思ったのを覚えています。
あの子のためにできるのは、母乳を出すことだけ。そう思って必死でご飯を口に運びましたが、食事中も、歯を磨いていても、涙が後から後からあふれてきます。
そんなわたしを気遣って、看護師さんが「産後のお母さんたちの大部屋に移る?気がまぎれるかもよー」と勧めてくれました。が、当時のわたしには受け入れられませんでした。
搾乳と授乳は同じ時間に授乳室でするよう決められていて、そこで出会う産後のママたちはみな、「普通の体重で生まれた」赤ちゃんといっしょ。「おっぱい飲もうね」と話しかけたり、「この姿勢、肩こるよね~」とワイワイ言葉を交わしたり。うらやましくて、「普通に産めなかった」ことが情けなくて。ひとりでいるよりずっとつらい、針のむしろのような空間だったのです。
せっかくの提案でしたが断り、搾乳は時間をずらして、ひとり、ひっそりと行うようになりました。
正直、この世から消えてなくなりたい、とすら思いました。でも、わたしが早産してしまった子は懸命に生きようとしている。4歳の娘のためにも、ママが元気でいないといけない。
産んでしまった者のつらさ。産んでしまった者の責任。同じ親である夫とも、到底分かち合えない苦しみ。
「母親」って、なんて孤独なんだろう。
暗闇にひとりぼっち、のような絶望を抱えて
自分と、周りと、すべてのものと闘うような日々が始まりました。
※写真①は、10日後ぐらいにNICUで面会する夫、写真②は出産4日後の日記です。そのときの心境が分かる弱々しい字だなぁと、12年ぶりに読み返しました。
※過去のブログについては、下記をご参照ください。
<107>「手のひらサイズ」で生まれたきみと①
<108>「手のひらサイズ」で生まれたきみと②
<110>「手のひらサイズ」で生まれたきみと③
<111>「手のひらサイズ」で生まれたきみと④
▽萩原 真(はぎわら まこと)
【降っても晴れても すきっぷびより】は、すきっぷスタッフで元記者の萩原が、3人育児のドタバタや障害のある息子との生活で感じたこと、うれしいことから尽きない悩みまで本音満載でお届けします。
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