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【降っても晴れても すきっぷびより】<111>「手のひらサイズ」で生まれたきみと④
2023年04月25日
2月初旬の、寒い日だった…気がします。正直、どんな天気だったかもよく覚えていないのです。
“その日”が特別な日になるとは、思いもせず…
12年前の、第二子妊娠中。切迫流早産で数カ月の安静生活を送り、「子宮内胎児発育遅延」のおそれも指摘されるなど、山あり、谷あり…でしたが、転院した神戸市の産院ではベテランの医師に受け持ってもらい、「わたしの妊婦生活も、ようやく落ち着いてきたなぁ」と思ったころでした。
ごくわずかな出血があり、念のため…と、2日後の妊婦健診を早めて、夫と病院に向かったのはお昼過ぎ。
お腹のエコーをとる主治医は、珍しく渋い顔。いつもより長時間、入念に診察した後、
「臍帯血(さいたいけつ=母親から赤ちゃんに栄養を送るため、へその緒を流れる血液のこと)が逆流しています」「今日中に出産しないといけないかも」
系列の大学病院に急いで向かうよう言われました。
今日、出産…?いやいや、まさか。
予定日はちょうど3カ月後の、5月上旬。一瞬、頭が真っ白になったものの、お腹の赤ちゃんは元気に動いています。
きっと、大げさに言っているだけだろう。そう自分に言い聞かせ、車中で念のため仙台の母にメールしたときも、そこまでの危機感はありませんでした。
大学病院で再度エコーをとってもらうと、やはり、臍帯血が逆流している、とのこと。「緊急帝王切開」に向け、点滴、採血、心電図測定…と慌ただしく処置や検査をされ、「出産」が突然、現実のものとして迫ってきました。
「せめて1日、様子を見ることはできないんですか?」
産科の医師に聞くと、
「NICU(新生児集中治療室)の先生もそう言っています。救急車で来てもらった方がよかった、そのぐらい危ない状態だと」
その言葉で、
あぁ、本当にいますぐ、赤ちゃんをお腹から出さなきゃいけないんだ…と、涙があふれてきました。
「肺が育っておらず、すぐに気管挿管するけれど、それでも厳しいかもしれない」
「生まれても泣けないと思います」
「母体にもリスクが…」
怖い話を、ただ呆然としながら聞いていました。
3カ月も早く外の世界に出されて、この子はどうなるんだろう?
でも、いま出してあげないと死んでしまうの?
どちらを選んでも、命の危険がある。つらすぎる選択でした。
手術室に向かうころには、深夜に。歩いてエレベーターに乗り込むとき、4歳の娘が「ママ―!」と泣いていて、安心させねばと笑顔で手を振りました。
帝王切開をしたママたちならよくご存じだと思いますが、局所麻酔のため、お腹を開かれているのに意識ははっきりしている、不思議な感覚。執刀したのは新人の医師なのか、年配の医師から「へたくそ!」などと注意の連続。不安が高まりました。
上の娘の出産で陣痛の壮絶さを味わい、回復にも時間がかかったため、2人目は「無痛分娩」に挑戦する予定でした。
主治医からは1月半ば、「少しずつ動いてもいいよ」と言われ、夫と近くのカフェに出かけたり、記事の整理をしたり。育児休業中に保育士の資格をとろうと通信講座に申し込み、10日前に教材が届いたばかり。「赤ちゃんが産まれてからは時間がとれないと思うので、出産までにしっかり勉強しなければ。頑張ろう!!」。読み返した当時の日記には、力強い字で決意が書かれていました。恒例の節分も、家族3人で大笑いしながら楽しんだ記録があります。
「不安」「眠れない」「涙が止まらない」
妊娠初期からそんな言葉ばかり並んでいた日記が、笑いや希望、やる気に満ちていった、そんな矢先。
なぜいま、こんなところで出産しているのだろう。
不安なのか寒いのか、ガタガタと震えが止まらなくなり、近くにいた助産師さんがぎゅっと手を握ってくれました。
アー。
子猫のような、機械の電子音のようなかすかな産声が、3回。
「聞こえましたか?赤ちゃん、出てきましたよ」。助産師さんが枕元に連れてきた赤ちゃんは、折れそうに細くて、真っ赤。
泣けないと言われていたのに、泣いてくれた。この子は強い子だ…。
小さな小さな足に、そっと触らせてもらいました。
在胎27週2日、582グラム。
手のひらに乗るほどの赤ちゃんとの日々には、想像を絶する試練が待ち受けていました。
※写真は生後3カ月半の息子。ようやく、1500グラムほどになったころです。
過去のブログについては、下記をご参照ください。
<107>「手のひらサイズ」で生まれたきみと①
<108>「手のひらサイズ」で生まれたきみと②
<110>「手のひらサイズ」で生まれたきみと③
▽萩原 真(はぎわら まこと)
【降っても晴れても すきっぷびより】は、すきっぷスタッフで元記者の萩原が、3人育児のドタバタや障害のある息子との生活で感じたこと、うれしいことから尽きない悩みまで本音満載でお届けします。
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